「信じられない夜」になったサイトウキネンフェス 松本gig

開演前に会場エントランスにあったバーは全て無料、小澤征爾と大西順子の共演、15分以上も鳴り止まないカーテンコール、松本の人たちのもてなし。とにかく全てが信じられないくらい素敵な夜を作りだしていて、忘れられない体験になった。

会場は松本市文化会館改めキッセイホール。松本駅からバスで20分くらいのところにある。渋滞するかなと思ったのだが、案外普通にスルスルと進んで開場1時間前には到着してしまった。

どこかバーでもあるかなと思っていたのだが、会場前の広場にテントがあってそこで小さなパーティーをしている感じ。関係者向けのものかと思ったら、そうではなくて今日のイベントにあわせて無料でドリンクを提供しているのだということ。

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しかも、提供されるドリンク類はなんか適当にあしらわれた紙パックの白ワインとかじゃなくて、長野県で作られたワイン、地ビール、ソフトドリンク、そして長野産のウィスキーや日本酒まである。これが全て無料だなんて、支払い代わりに後片付け手伝えっていわれても泥酔しちゃっているから無理だよとか思いつつ、あれこれ堪能。いやもうどれもエッジが効いたうまさで、ここにいるだけで長野県を酒巡りできるくらいだ。軽井沢の「よなよなエール」まで無料で飲み放題だなんて。

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テーブルには簡単なおつまみまであるという徹底したもてなしぶり。あとで知り合いの居酒屋さんにきいたら、松本市内の酒屋さんとか居酒屋さんがビールサーバを貸し出したり、お酒を提供したりみんなボランティアでやっているみたい。松本のひとたちが、このサイトウキネンフェスティバル(SKF)をどれだけ大事に運営しているのかということを知る。そして、このバーに来ている人たちはみんな余裕があるというか、がっついていない穏やかな雰囲気でこのイベントを楽しんでいるのがいい。そりゃ、なかには1週間山で断食してきたばかりのような人もいるのだが、ほんの一部の存在だ。

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開演前にこんなに飲んじゃって大丈夫かなと思ったのだが、いざ大西順子が登場してきて、ピアノを弾きはじめるとそんなゆるい僕の気分を打ち消すかのような、ぴりっとした演奏で目が覚める。大西順子さんも、最初は緊張していたみたいだけど、だんだんと気持ちが入ってきたのか、いろんな弾き方で曲を楽しませてくれる。ううむ・・小澤征爾だけじゃなくて僕も彼女の引退には反対だ!って気分になる。通じ合う次元は違うかも知れないがよく分かる。

そして、合間には小澤征爾推薦の陳琳がSFKに初登場で指揮をつとめる。「ロメオとジュリエット」という親しみやすい演目なので(曲名知らなくても、曲は知っている)、会場も静かに盛り上がるって感じ。僕もすっかりお酒の酔いがさめた。曲によるのかもしれないが、陳琳の指揮と小澤征爾の指揮ではオーケストラの雰囲気がまったく異なる印象をうけた。陳琳はソリッドに曲をまとめているのに対して、今回の小澤征爾は柔らかく膨らみのある音の印象。僕はクラシック音楽についてはまったくの門外漢なので、ぜんぜん的外れなことをいっているのかもしれないが、楽器から出される音のつぶつぶを直に身体に感じられるのがコンサートのいいところだと思っているので、このふたつの対比は聴いていて楽しかった。

そしてあっという間のラスト。すでに時間はオーバーしつつあるのだが、まあそれは最初から織り込み済み。小澤征爾と大西順子の共演によるガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー(Rhapsody in Blue)」。小澤征爾はオーケストラの団員と一緒にわらわらと出てきて、なんか白髪のおっちゃんがいると思ったら彼だった。すごくカジュアルなのだが、こうしていてもオーケストラのメンバーを指揮できるのはそのカリスマ性だろうなと思う。

曲の最初のクラリネットの独演は、観ているこちらも手に汗握ってしまうくらいの緊張感だったのだが、なんとか無事にやり遂げてくれて、ぼくらもほっとしてしまったのだが、演奏終わった後の奏者の笑顔みてなんか共感してしまった。あれは、オリンピックの競技に出るくらいの緊張感だったと思う。

そして、曲の合間にピアノソロが入っていくのだが、なんかもう、この演奏は終わってほしくないなあと思いながらずっと聴いていた。ずっとこの世界が続けばいいのにとか自分勝手な願いをもってしまったりして。とはいえ、クライマックスを迎えてコンサートは終演。さすがに、みな立ち上がっての拍手。この後立ち寄った居酒屋で「何度もサイトウキネンに来ているがあれは最悪のコンサートだった」とかいっている人がいたのだが、まあそりゃ何度も来ていれば自分に合わない価値観のときもあるよなって思うのだが、まあそんな狭量なこといっても今夜の演奏がすごいことには変わりがないと思うし、僕にとっては本当に信じられないくらいの体験だった。

で、こんな風に思っているのは僕だけじゃなくて、翌朝松本市内を散歩していたら、後ろから自転車に乗ってきたおじさんが機嫌良く口笛で「ラプソディ・イン・ブルー」のフレーズを吹きながら通り過ぎていったのをみかけた。

そりゃあんなの聴いちゃったらしばらくはそうなると思うよ。来年は大西順子のジャズ勉強会も聴きにいってみたいと思いつつ僕の今年の夏フェスが終わった。空はすっかり秋の風情でもう夏が終わったんだなあとしみじみ感じてしまった。

なぜ今回のコンサートが行われることになったのかという経緯はWEBサイトに載っていた。

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